2020年5月31日日曜日

「あみもの」一首評 投稿:西淳子


かわいくない犬が会社の植え込みにマーキングしてよっしゃと思う あーあ

   /御殿山みなみ(「あみもの」第一号)



あーあ(笑)

連作タイトルが「散歩っ」だから、散歩していたときに見た風景を詠んだ歌なんだろなあ。

「かわいくない犬」なのが良い。「かわいい犬」だったら、よっしゃ感が減っちゃいそうだから。「ぶさいくな犬」にすれば初句が5音になるが、「かわいくない犬」のほうが良い気がする。これはなんとなく。

最後の「あーあ」がなければ、

かわいくない/犬が会社の/植え込みに/マーキングして/よっしゃと思う 

で、6・7・5・7・7とほぼ定型になる。
なるのに、一字空けして「あーあ」である。
主体はなんで「あーあ」となったんだろう。

最初に読んだとき、「会社」は主体の現在の勤務先であり、あまり良い職場だと思っていないため、よっしゃと思ったのかなと考えた。
でもそう考えると、「あーあ」がいまいち分からなくて。主体はその会社の植え込みの担当(?)だから「あーあ」となったのかなと考えていた。

でも改めて読んでみて、連作の中に「帰省」、「正月の散歩」とあることから正月の帰省の際に散歩したときの歌であることに気づいた。だとすれば、「会社」は現在の勤務先ではないのでは。
じゃあなんで、よっしゃと思ったんだろう。過去の勤務先だから?それともライバル会社だから?

もしかしたら、「会社」は過去の勤務先でもライバル会社でもないのかもしれない(し、そうであるのかもしれない。どっちやねん)。
たぶん「会社」ではなく「会社の植え込み」なのがポイントなのだろう。
会社の植え込みをイメージしたとき、剪定された綺麗なものが思い浮かぶ。

「会社の植え込み」=「綺麗なもの」と考えたとき、「かわいくない犬」は「綺麗ではないもの」であり、「マーキング」は「綺麗ではない行為」であると考えられる。「マーキング」が体をこすりつけるほうではなく、糞尿をかけるほうならなおさらそうだ。
「綺麗ではないもの」が「綺麗なもの」に対して「綺麗ではない行為」をする場面を見て、「よっしゃ」と思った。思ってしまったのだ。

アダルト系の創作物で、男性が相手やその相手のアイテム(ダジャレかよ)に精液をかけるというものがあるが、それに少し似ているような気がする。「よっしゃ」は征服欲や破壊衝動のようなものを表しているのかもしれない。
自身の征服欲や破壊衝動のようなものに気づいて後ろめたさを感じてしまい、「あーあ」となったのではないだろうか。

そう考えると、笑えない。文章の始めで、あーあ(笑)とか言っていた私を殴りたい。

最後に、「かわいくない犬、実は暗喩説」も思い浮かんだので検証開始。

「かわいくない犬」は「会社員のおっさん」のことを表しているのかもしれない。「会社の犬」という表現も世の中にはあるし。
会社に対して不満を募らせたおっさんが植え込みに立ちションしている姿を見て、よっしゃと思った。けれど、後からよく考えたら「あーあ、あのおっさん何やってんねん」と呆れてしまった、という歌なのかも。

あっ、でも、おっさんの立ちション姿を見てよっしゃと思うこと滅多にないな。というわけで、説立証ならず。

検証結果
あーあ

評:西淳子(Twitter: @Jacky244Ray)

0 件のコメント:

コメントを投稿