2019年2月26日火曜日
「あみもの」一首評 投稿:満島せしん
なんでおれよりおまえのほうがしあわせそうなんだよ ロウソクを消す
/谷口泰星『バースデイソング』(『あみもの』第十四号)
誕生日が嬉しくない。誕生日が来るということは、歳を取るということで、老いるということで、つまりは死に一歩近づくということだ。何も嬉しくはない。ただ、粛々と日々を過ごして、たまたま辿り着いた日として、その日がある、というだけだ。何の感慨もない。 それでも、みんな誕生日のひとには「おめでとう」と言う。プレゼントを用意し、ケーキにロウソクを並べて、バースデーソングを歌う。それは、相手の生への全肯定だ。ここまで生きてくれてありがとう。あなたが生きてくれて、嬉しい。これからも、よろしくね。その気持ちは、老いや、死とは別次元にある。ただ、あなたがいてくれて嬉しい、という純粋な気持ちだ。 この歌の主体は、その全肯定がとてもまぶしい。あなたがいてくれて嬉しい、という気持ちで、自分のために灯されたロウソクを前にはにかむ主体。粛々と生きて、ふと辿り着いただけの1日に、急に現れてくる全肯定。恐らく主体は、あまり自分の生に肯定的ではないのだろう。老いや、死という未来が迫ることももちろん、ただ粛々と生きてきただけの自分にあまりいい思いを抱いていない印象だ。だから、「おまえ」のしあわせそうな顔に違和感を感じる。「おまえ」をそんな顔にさせる価値が、おれにはあるのか?と疑問に思う。 でも、主体は最後に、ロウソクを吹き消す。消したら願い事が叶う、というバースデーケーキのロウソクは、「おまえ」からの祝福だ。その祝福を主体は受け入れる。なんということはない自分、に対しての全肯定を受け入れる。その気持ちまでは描かれていないが、きっと主体は、少し不器用に笑っているだろう。自分を全肯定してくれる「おまえ」がいてくれて、嬉しい。そして、そんな「おまえ」がいてくれる自分の生も、まあ悪くないかな、と思っているに違いない。
評:満島せしん(Twitter:@seshinmitsushma)
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