2019年4月15日月曜日

「あみもの」一首評 投稿:エノモトユミ 2


「汝死を恐れるなかれ」耳元で囁く神にただただ祈る

   /海月ただよう『ドラ○○クエスト』(『あみもの』第十五号)



 かの有名なRPGのタイトルを伏せ字にし、第1首目で飛び込む「注射器」の文字で読む者たちにタイトルを想起させる。あぁ、これはいけないクスリの連作なのね、と。
 掴みはオッケイ。
 さて、そんな危険な香り漂う連作。上記の一首を引きました。
 かの有名なRPG(めんどくさいので以下ドラクエとする)を私は「9」までプレイしています。そもそもドラゴンボールが好きゆえに鳥山明が好きなので、FFよりもドラクエ派です。ゲーム序盤はそれこそ必死。文字の色がオレンジ色になってしまっているのに「あとちょっとで村だ!」ってところでバブルスライム(毒)とか魔法使い(火の呪文使うやつ)がホイミスライム(敵を回復させる呪文使うやつ)連れで現れたりすることがままあって、プレイヤーとしてもドキドキするものです。
 今回の歌の中の神は「汝死を恐れるなかれ」と囁く訳ですが、ドラクエの中でも勇者に直接語りかける超越的な存在というのがしばしば登場するのを思い出します。さすがに「死を恐れるなかれ」とか言っているのは見たことないですが、さらっと「魔王○○を打ち崩すのです」とか言いますね。わりと簡単に…。さて、ではこの「汝死を恐れるなかれ」は本当に神による囁きなのでしょうか。
 連作の最後を飾る歌に登場する「ヒロポン」はあまりに有名な薬です。ヒロポンについてはWikipediaより引用しますが「当時の適応症は、『過度の肉体および精神活動時』『夜間作業その他睡気除去を必要とする時』『疲労二日酔乗り物酔い』『各種憂鬱症』であった。帝国陸海軍では、長距離飛行を行う航空兵などに支給されている。ヒロポンの注射薬は『暗視ホルモン』と呼ばれ、B-29の迎撃にあたる夜間戦闘機隊員に投与された。」とのことです。基本、ヒロポンは眠気を飛ばす役割を担っていたと思われますが、上記の「各種憂鬱症」に効くというのが難である。
 この主体における憂鬱は「死への恐れ」。その憂鬱を忘れさせる薬を与える。その薬を摂取したものは神の声を聴く。神の声とはつまり幻聴ですね。しかし、その神に「ただただ祈る」ということは、「死にたくない」という気持ちがあるということ。「死への恐れ」を確実に忘れたわけではないという残酷なせめぎあいの中にいると思われます。
 なんて悲しく苦しいのでしょう…。
 この連作の中において、薬を与えられた少年たちには救いがありません。魔王を倒したところで、凱旋して「勇者様ばんざい」の声を村人から聞くこともありません。その白い薬を与えた商人が全て成り代わり王座についたのであろうと連作中から読み取れます。
 おのれトルネコめ…(違う)
※トルネコとはドラクエに登場する商人の名前です。念のため。
 前述したヒロポンにおいても戦後の蔓延については有名なところなので、まさに歴史の闇が横たわっています。現代だっていくら白い薬を規制しても、あとからあとから黒い薬が沸いて出るいたちごっこ。そんな薬を必要とせずに生きていかれる、普通の日常がありがたい…。そんなことにまで思いを馳せさせるパンチ力がこの連作には備わっているのですね。
 そういえば、ドラえもんのヒミツ道具に「ハツラツン」とか「ねむらなくてもつかれないくすり」とかがありますね。22世紀になれば、副作用のないグレーな薬が生まれてしまうんでしょうか。ヒロポンの名称は「疲労がポンと取れる」ってことらしいので名付け方としたは「ハツラツン」にも似て…※残した手記はここで途絶える
 それは冗談として、ここで〆とさせて頂きます。お読みくださり、ありがとうございました。いけないクスリ。ダメ、ゼッタイ。


評:エノモトユミ(Twitter:@enomotoyumi1007)

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